少し目を離した浴室で|(入浴/30分)
本記事の趣旨
この記事では、入浴手順の個別性共有不足と一時的な見守り中断が重なり
浴槽内での転倒が発生した事例を取り上げます。
事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。
現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。
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【事例検討】少し目を離した浴室で(入浴)
■利用者プロフィール
90歳 女性 要介護度:3 施設入所中 半年前に入所
ADL:立位保持は可能だがやや不安定。浴室内の移動は職員の見守りまたは軽介助が必要。浴槽の出入りは手すりを使用すれば自身で行える。
認知機能:軽度の認知症あり。会話は成立するが、新しいことへの理解はゆっくり。慣れた手順には強くこだわる傾向がある。
福祉用具:浴室内に手すりあり。浴槽内には滑り止めマットを使用。
性格:几帳面で、手順へのこだわりが強い。決まった流れで行うことに安心感を持つ。一方で、職員に任せることに慣れており、「言われた通りにする」傾向が強い。
生活歴:長年主婦として家庭を支えてきた。編み物が趣味。
既往歴:変形性膝関節症 高血圧
服薬情報:降圧薬 鎮痛薬
環境:個浴。浴室、脱衣所ともに一般的な家庭サイズ。
現在の生活リズム:入浴日は決まった順番で介助を受ける。衣類の準備や移動も、職員の指示に従って行うことが多い。
入所当時は入浴拒否がみられたが、職員間の観察や工夫により声かけ内容や介助手順を見直すことで改善された。
内容についてはマニュアル化はされておらず、口頭での情報共有に留まっている。
直近の変化:両下肢に軽度のむくみが確認されている。
■状況
午後の入浴時間。
Aさんは職員Bの見守りのもと洗身を終え、浴槽に入ろうとしていた。
Aさんは普段と同じように、浴槽に対して左を向いて手すりを握って立っていた。
そこで、別の職員が脱衣所入り口付近から職員Bに対して声をかけ、昼の服薬状況についての確認をした。
職員Bは服薬について答えるためにAさんから目を離した。
数秒後、Aさんは一人で浴槽に入ろうとしてバランスを崩した。
気づいた職員Bが支えようとしたものの、Aさんは浴室の壁にぶつかるように転倒した。
転倒直前、Aさんは左足から浴槽に入ろうとしていた。
「普段は右足から入っている」と職員は話している。
✍原因を考えてみましょう
✍どのような対策が考えられるか
進行役メモ ※声かけの例
- なぜ職員Bに服薬状況の確認をしたと思いますか?
- 利用者の性格は、この行動に関係していそうでしょうか?
- 介助方法についての情報共有は、十分にできていたと思いますか?
▼この事例の整理例
こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。
また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。
■表面的な原因
- 見守り中に一時的に目を離してしまった。
- 普段と異なる足順での動作。
■背景にある原因
- 職員間の声かけが介助中に発生し、注意が分散しやすい業務状況だった。
- 軽度認知症により、その場の判断や手順の再現が不安定になっていたのかもしれない。
- 入浴手順が明文化されず共有が口頭に留まっており、職員によって手順が違っている可能性がある。
■対策
- 浴槽出入りのタイミングでは、その場を離れず対応できるよう、他職員からの声かけは原則控える。または一時的に応答を保留する。
- 浴槽出入りの場面では、必ず手が届く位置で見守る、もしくは軽く身体支持を行うことを基本とする。
- 入浴介助中は「今から入りますね」「右足からいきましょう」など、動作ごとに具体的な声かけを行い手順を一致させる。
- 入浴時の個別手順(どちらの足から入るか、手すりの使い方など)を具体的に記録し、職員間で共有できる形にする。
見方のポイント
この事例は「一瞬目を離したことによる転倒」とも捉えられますが、
その背景には手順や共有方法のあり方が影響していた可能性もあります。
特に、本人が慣れている動作であっても、わずかな条件の違いで不安定になることがあります。
また、個別性の高い介助内容が共有の仕組みに乗っていない場合、再現性が低くなることも考えられます。
一場面の出来事だけでなく、「普段どのように支えていたか」という前提から捉えることが重要になる場合もあります。



