「大丈夫」のあとで|(入浴/30分)
本記事の趣旨
この記事では、入浴動作に対する過信と身体機能低下の見落としが重なり
入浴中のヒヤリハットが発生した事例を取り上げます。
事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。
現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。
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【事例検討】「大丈夫」のあとで(入浴)
■利用者プロフィール
89歳 男性 要介護度:2 施設入所中 下肢筋力低下あり
ADL: 屋内は手すり使用で歩行可能。立ち上がり時にややふらつきあり。入浴は一部介助。
認知機能: 軽度認知症あり。理解力は概ね保たれているが、自分の身体能力を過信することがある。
性格: 物静かで穏やかだが、少し頑固なところがある。入浴拒否はみられず素直に応じる。
生活歴: 若い頃から大工として働いてきた。家の修理や家具作りなど、細かい作業が得意だったとよく話している。
定年後も簡単な修理などを友人やご近所さんから頼まれ引き受けていた。
既往歴: 変形性膝関節症 高血圧
現在の生活リズム: 天気の良い日は午後から窓際に座りウトウトとすることもある。
一人で過ごすことが多いが、話しかけられれば穏やかに応じている。「昔は現場で一日中動いていたんだ」とよく話している。
環境: 個浴。一般的な家庭浴槽。またぐ形で入浴する構造。浴槽横に手すりあり。
直近の変化: 数日前から「膝が少し痛い」と話しているが、歩行自体は可能。また最近窓際での傾眠の頻度が増えた気がする、と職員間で話している。
■状況
14:30ごろ、入浴担当職員は窓際で新聞を読んでいるAさんに入浴の声かけをした。
Aさんは「うーん、今からですか?」と、あまり乗り気ではない様子だったが、その後すぐに納得してくれた。
入浴時、
Aさんはいつものように自分で洗身を終え浴槽へ入ろうとした。
職員は「ゆっくり入りましょうね」と声をかけたが、
「大丈夫、心配ないですよ」と答えた。
Aさんは手すりを握り浴槽を跨ごうとして片足をあげたが、バランスを崩してしまった。
すぐに職員が支えたため大事には至らなかったものの、手すりに頭を軽くぶつけてしまった。
担当職員はこれまでもAさんの入浴介助をしており、Aさんは普段から自分で浴槽を跨ぐことができていた。
✍原因を考えてみましょう
✍どのような対策が考えられるか
進行役メモ ※声かけの例
- 入浴の声かけへの反応から考えられることはありますか?
- 入浴の声かけへの反応を「事故の予兆」として捉えるためには、前提としてどんな情報が必要でしょうか?
- 傾眠の頻度が増えた原因として、どのような可能性があると思いますか?
▼この事例の整理例
こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。
また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。
■表面的な原因
- 手すり使用中でも身体支持が不十分だった。
■背景にある原因
- 下肢筋力低下や膝痛により、跨ぎ動作の安定性が低下していたことが考えられる。
- 最近の傾眠増加により、身体の反応や集中力が低下していた可能性がある。
■対策
- 「大丈夫」との発言があった場合でも、その日の体調(膝痛・傾眠など)を記録や申し送りなど多角的に判断する。
- 入浴前に「今日は膝の調子どうですか」など具体的に状態確認を行い、動作リスクを事前に共有する。
- 傾眠頻度についての記録を残してどの程度増えたかを評価し、傾眠についての改善・対応を検討する。
見方のポイント
この事例は「たまたまバランスを崩した」とも捉えられますが、
その背景には認識と身体状況のズレがあった可能性があります。
特に「これまでできていたこと」が、現在も同じようにできるとは限らない点が一つの視点です。
また、本人の言葉と実際の身体状態が一致しない場合もあります。
発言だけで判断せず、その時の状態や直近の変化を踏まえて関わることが重要になる場合もあります。





