世話をされたくない利用者|(転倒・転落/30分)
本記事の趣旨
この記事では、自立志向による介助拒否と移動時の判断過信が重なり転倒が発生した事例を取り上げます。
事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。
現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。
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【事例検討】世話をされたくない利用者(転倒・転落)
■利用者プロフィール
87歳 男性 要介護度:2 施設入所中
ADL:屋内歩行は可能。廊下では手すりを使いながら移動している。立ち上がりや方向転換でふらつくことがあるが、本人は介助を拒否することが多い。
トイレ動作も基本的には自分で行おうとする。
認知機能:軽度の認知症あり。日付や場所の理解は概ね保たれている。危険な状況でも「自分はできる」という認識が優先される傾向がある。
福祉用具:廊下とトイレ内に手すり設置。歩行器の使用を提案されているが、本人が「まだそこまで弱っていない」として使用していない。
性格:行動が早く、思い立つとすぐ動くタイプ。人に指示されることを嫌い、自分のやり方で進めようとする。我慢強いが、世話を焼かれることには苛立ちを見せることがある。
生活歴:長年建設業に従事。現場仕事を仕切る立場だったため、自分で判断して動くことが習慣になっている。
既往歴:脳梗塞既往あり(軽度の右下肢筋力低下) 高血圧
服薬情報:降圧薬 抗血小板薬
環境:居室からトイレまでは廊下を約10m移動する。途中に連続した手すりあり。
現在の生活リズム:日中は居室と食堂を自分で行き来することが多い。トイレも職員に声をかけず、自分で行こうとすることがある。
■状況
昼食後、Aさんはすぐに居室に戻ったが5分程してトイレへ向かって歩き始めた。
職員が「一緒に行きましょうか」と声をかけながら近づくと、
Aさんは少し強い口調で「大丈夫だから。そんなに世話しなくていい」と答えた。
その直後、Aさんは手すりから手を離し、少し早い足取りでトイレへ向かおうとした。
数歩進んだところで体勢を崩し、前方へ転倒した。
✍原因を考えてみましょう
✍どのような対策が考えられるか
進行役メモ ※声かけの例
- Aさん「声をかけられた直後」の行動にはどんな理由があったと思いますか?
- Aさんへの声かけの内容として、どんな工夫ができるでしょうか?
- 昼食後の行動は、関係ありそうですか?
▼この事例の整理例
こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。
また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。
■表面的な原因
- 手すりを離した状態での歩行。
- 方向転換や歩行中のふらつきへの対応が間に合わなかった。
■背景にある原因
- 「自分でできる」という認識が強く、介助や見守りを受け入れにくかったのかもしれない。
- 指示されることへの抵抗感から、安全よりも自立行動を優先した可能性がある。
- 職員の関わりが「介助の提案」に偏り、本人の納得を得るプロセスが十分でなかった。
- 軽度の筋力低下やふらつきがあるにもかかわらず、リスクとして本人・職員ともに共有しきれていなかった。
■対策
- 「一緒に行きましょう」ではなく、
「少し後ろから見守らせてください」など、本人の自立を尊重した関わり方を模索する。 - 手すりを使って移動できている場面を評価しつつ、
「ここだけ一緒に確認させてください」と部分的な関与を提案する。 - 転倒リスクについて本人と共有する際は、
「危ないから」ではなく「安定して動ける方法を一緒に考えたい」といった伝え方で納得を得る。
見方のポイント
背景には本人の価値観や行動特性が大きく関わっている可能性があります。
特に「自分でやる」という意識は強みでもあり、同時にリスクにもつながる場合があります。
また、介助を拒否する行動も単なる拒否ではなく、
これまでの生活歴や役割意識の延長として表れている可能性があります。
安全確保だけでなく、本人が受け入れやすい関わり方という視点で捉えることが重要です。



