落ち着きがなくなった朝|(転倒・転落/30分)
本記事の趣旨
この記事では、生活歴に基づく時間認識の錯誤と見守り中断が重なり転倒が発生した事例を取り上げます。
事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。
現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。
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【事例検討】落ち着きがなくなった朝(転倒・転落)
■利用者プロフィール
82歳 男性 要介護度:2 施設入所中 右下肢に軽い麻痺
ADL: 屋内は歩行器を使用し、見守り程度で歩行可能。方向転換時にややふらつきあり。立ち上がり時に勢いが強い傾向。入浴は一部介助。
認知機能: アルツハイマー型認知症。日時・場所の見当識低下あり。過去の生活と現在を混同することがある。自尊心が保たれており、指摘されると反発することがある。
福祉用具: 歩行器使用。ベッド横手すり設置。普段は運動靴を着用。
性格: 真面目で責任感が強い。「仕事を休んだことがない」が口癖。
生活歴: 元工場勤務。午前9時始業。長年無遅刻無欠勤。定年後は時々工場の仕事を手伝いながら、自宅で妻と2人で野菜を育てていた。
既往歴: 高血圧症 軽度脳梗塞
服薬情報: 降圧薬(朝食後) 抗血小板薬 睡眠導入剤 下剤(頓服)
環境: 1人部屋。居室は玄関に近い位置。廊下は直線で見通しがよい。自席はフロアの中央あたり。
事故発生時の職員配置は、フロア担当:4人 入浴担当:1人の計5人。
現在の生活リズム: 朝は活動的。朝食後はフロアでコーヒーを飲みながらテレビ視聴が日課。やや便秘気味で下剤無しで出ることもあれば、下剤を要することもある。
週に一回、妻と娘が面会に来る。
■状況
午前8時30分頃から、Aさんは窓際まで行き外を眺めたり、居室へ行ったりと徐々に落ち着きがなくなる。
職員はその都度、落ち着けるようにニュースや天気の話をして、
Aさんも穏やかに返答するものの、職員が離れてしばらくすると立ち上がりどこかに行こうとする。
落ち着かないまま9時30分頃、一人で居室へ戻り上着と帽子を着用してフロアに出てきた。
職員が声をかけると「まあそろそろ時間だろ」と答えた。
職員は、仕事と勘違いしていると考え「今日は土曜日なのでお休みですよ」と声をかけ、
Aさんもすぐに納得しフロアのソファに座ってテレビを観始めたため、
安心してその場を離れた。
約10分後、他利用者の悲鳴が聞こえ見に行くと、ソファから約3m離れた玄関へ続く扉の前で倒れているAさんを発見した。
近くに歩行器が倒れており、右の靴が脱げかかっていた。
この日、下剤は服用していない。
✍原因を考えてみましょう
✍どのような対策が考えられるか
進行役メモ ※声かけの例
- 仕事と勘違いしている、以外に落ち着きが無くなった理由はありそうですか?
- ソファに座ったことは、「外に出たい」という思いが影響していそうですか?
- ソファからの立ち上がりは、安全といえるでしょうか?
- 服薬情報で気になる点はありますか?
▼この事例の整理例
こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。
また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。
■表面的な原因
- 落ち着いたと考え、その場を離れてしまった。
- 靴の脱げかかりによる足元の不安定さ。
■背景にある原因
- 声かけで一時的に納得しても、認知症により意図の保持が難しかった可能性がある。
- 落ち着きのなさが継続していたが、行動の持続性への見立てが十分でなかった。
■対策
- 朝の時間帯に「仕事に行く」行動が出やすいことを踏まえ、8時半〜10時頃はフロア内で職員が近くにいる位置に座席を調整する。
- 「休み」と伝えるだけでなく、「今日はここで一緒に新聞を見ましょう」など具体的な代替行動に誘導する。
- 歩行器使用時は靴の状態(かかとのフィット、脱げかかり)をその都度確認し、必要に応じて履き直しを支援する。
見方のポイント
「声かけ後に落ち着いた場面」で終わらせず、
その後の行動の持続に目を向ける視点が考えられます。
一度納得して座っていても、
その状態が継続するとは限らない状況があった可能性があります。
また、生活歴に基づく行動が時間帯と結びついて繰り返されている点も一つの手がかりといえます。
その場の対応だけでなく「その後どう動くか」という流れで捉えることが、見守りの工夫につながる場合もあります。


