何度説明しても帰ろうとする夜|(夜勤/30分)
本記事の趣旨
この記事では、夕方以降の不安増強と帰宅願望に対する説明的対応の繰り返し、
さらに夜間見守りの分断が重なり転倒が発生した事例を取り上げます。
事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。
現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。
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【事例検討】何度説明しても帰ろうとする夜(夜勤)
■利用者プロフィール
88歳 女性 要介護度:3 施設入所中 アルツハイマー型認知症
ADL: 屋内は自立歩行可能。夜間はふらつきが見られることがある。
認知機能: 中等度認知症。時間・場所の見当識障害あり。
入所している理由を説明しても、しばらくすると忘れてしまうことがある。夕方から不安が強くなる傾向がある。
性格: まじめで責任感が強い。家族の世話をすることを「自分の役割」と考えてきた。
生活歴: 夫と二人で小さな商店を営みながら、3人の子どもを育てた。毎日早朝に起きて家族の朝食や弁当を準備していた。
既往歴: 高血圧 骨粗しょう症。半年前に自宅で転倒し大腿骨骨折。退院後、自宅生活が難しくなり施設入所となった。
服薬情報: 21時に睡眠導入剤を服用。
現在の生活リズム:日中は食堂で過ごすことが多い。
以前は洗濯物たたみを手伝っていたが、最近は自立度の高い新規入所者がまとめて行うことが多く、頼まれることが少なくなっている。
直近の変化:1週間ほど前に長男夫婦が面会に来た際、「子どもたちはもう大人だから大丈夫」と話していた。
その後から「家に帰らないと」「子どもたちが待っている」と話すことが増えている。
環境:居室の窓から住宅街の明かりが見える。夕方になると外を眺めていることがある。家族の面会は月に1回。夜勤は職員1名体制。
■状況
19時ごろから「帰ろうかしら」といった発言が時々みられたものの、リビングでテレビを観ながら他者と談笑するなど穏やかに過ごしていた。
22時の消灯後、Aさんはなかなか眠らず居室内や廊下を歩いていた。
職員Bが声をかけると、Aさんは「家に帰らないと。子どもたちがお腹を空かせている」と話した。
Bは安心させようと「ここで休んで大丈夫ですよ」「息子さんはもう大人ですから大丈夫ですよ」と説明し、ベッドへ誘導した。
しかし30分ほどすると、Aさんは再び廊下へ出てきた。
同じようなやりとりが何度か続いた。
Bはその都度居室へ誘導したが、他の利用者の対応もありしばらく目を離す時間もあった。
午前2時ごろ、他の利用者の対応が終わり居室へ巡視に行くとAさんの姿が見当たらず、
探しに行くと廊下の突き当りで床に座り込んでいるAさんを発見した。
✍原因を考えてみましょう
✍どのような対策が考えられるか
進行役メモ ※声かけの例
- 日中の過ごし方は、夜間の行動に関係しそうですか?
- 役割の有無は、帰宅願望に影響しそうですか?
- Aさんにとって「ここはどこ」だったのでしょうか?
- 職員Bの説明は、Aさんにとって「安心」に繋がらなかったのでしょうか?
- 安心してもらうために、説明以外にどんなことができるでしょうか?
▼この事例の整理例
こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。
また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。
■表面的な原因
- 繰り返される離床・徘徊への継続的な見守り不足。
- 夜間の単独歩行によるふらつき。
■背景にある原因
- 説明を受けても記憶保持が難しく、不安や行動が持続した。
- 日中の役割機会(洗濯物たたみなど)の減少により、役割欲求が満たされていなかった可能性がある。
- 面会後の発言増加から、不安や帰宅願望が高まっていたのかもしれない。
■対策
- 夕方〜夜間にかけて「帰宅」に関する発言が出始めた段階で、
洗濯物たたみや簡単な作業など役割を感じられる活動を意図的に取り入れる。 - 「帰らないといけない理由」に対して、
「もう準備はできていますよ」「今日はここで一緒に休みましょう」など、本人の思いを受け止めた上で安心につなげる関わりを行う。 - 同様の離床が繰り返される場合は、一定時間(例:30分〜1時間)はフロアや居室近くで過ごしてもらい、職員の視界内で見守る。
- 面会後など変化があった際は、「帰宅願望が強まっている」などの情報を具体的に共有し、夜間の対応方針を事前に確認する。
見方のポイント
この事例は夜間の転倒リスク場面として捉えられますが、
その背景には生活歴や直近の出来事が影響している可能性があります。
特に「家族のために動く」という役割意識が、時間帯と結びついて行動として表れていた点が一つの視点です。
また、説明による理解と行動の持続は必ずしも一致しない場合があります。
出来事だけでなく、「なぜその行動が繰り返されたのか」という流れで捉えることが重要になる場合もあります。



