高さ3センチの違い|(誤嚥・食事/30分)
本記事の趣旨
この記事では、福祉用具変更時の適合評価不足と姿勢保持環境の不備が重なり誤嚥が発生した事例を取り上げます。
事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。
現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。
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【事例検討】高さ3センチの違い(誤嚥・食事)
■利用者プロフィール
90歳 女性 要介護度:4 施設入所中 パーキンソン症状あり
ADL: 車椅子全介助。食事は一部介助。(米飯・一口大・薄とろみ)
認知機能: 軽度認知症。理解力はあるが判断に時間がかかる。
福祉用具: ティルト式車椅子使用。食事時は通常、前傾姿勢を保つための座面クッションとテーブル固定型前腕支持台を使用。
性格: 几帳面で自立心が強い。「自分でできることはやりたい」という思いが強い。
既往歴: パーキンソン病 嚥下機能低下
服薬情報: L-ドパ製剤(食前の時間調整あり)
環境: 食堂で他利用者と同席。テーブルは固定式。
現在の生活リズム: 服薬後30分ほどで動きが安定する傾向。昼食は比較的自分でスプーン操作可能。疲労が強い日は後半に姿勢が崩れやすい。
直近の変化: 1週間前に車椅子の点検があり、同型の代替車椅子を一時的に使用中。
■状況
昼食時間。
その日は、代替車椅子のまま食堂へ移動。
同じ型であったが、座面のクッションは施設備品の標準タイプに変更されていた。
普段使用している前傾保持用クッションは点検中で未装着。
前腕支持台も装着されていなかった。
担当職員は
「今日はこのままで大丈夫そうですね」と判断し、そのまま食事を開始した。
開始直後は自分でスプーンを持ち、ゆっくりと摂取していた。
しかし次第に骨盤が後傾し、顎が上がる姿勢になっていった。
職員は途中で背もたれ角度をやや起こしたが、座面の滑りは修正されなかった。
食事後半、とろみ付きの汁物を口に入れた直後、強くむせ込み、湿った咳が続いた。
後ほど確認したところ、
代替車椅子の座面高は、普段より3cm高い
テーブルとの距離がやや遠い
足底は床にしっかり接地していなかった
ことが分かった。
また、3日前に別職員が、
「最近少し食べにくそう」と申し送りしていた記録もあったが、福祉用具との関連については触れられていなかった。
✍原因を考えてみましょう
✍どのような対策が考えられるか
進行役メモ ※声かけの例
- 事前に姿勢の変化を想定することはできそうですか?
- 福祉用具を変更するときは、どんなことを確認すると良いでしょうか?
- 申し送りの内容は、どのように活かせそうですか?
- 利用者本人は、違和感を伝えられていたでしょうか?
▼この事例の整理例
こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。
また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。
■表面的な原因
- 不適切な座位姿勢(骨盤後傾・顎上がり)での食事。
- 本来使用していた支持用具(クッション・前腕支持台)の未使用。
■背景にある原因
- 代替車椅子使用に伴う微細な寸法差(座面高・足底接地・テーブル距離)が姿勢に影響した。
- 福祉用具が一部未装着でも「同型だから大丈夫」という判断が働いた。
- 「少し食べにくそう」という変化の情報が、姿勢や用具との関連で十分に共有されていなかった。
■対策
- 代替車椅子使用時は、座面高・足底接地・テーブルとの距離を実測または目視で確認し、
必要に応じてフットサポートやクッションで調整する。 - 食事前に「骨盤位置・体幹角度・顎の位置・前腕支持の有無」をチェック項目として明確化し、毎回確認する。
- 食事中も前半・後半で姿勢変化を観察し、崩れが見られた時点で一度食事を中断し再調整する。
見方のポイント
この事例は「むせ込み」として捉えられますが、
その背景には姿勢と環境のわずかな変化が積み重なっていた可能性があります。
同じ型の車椅子であっても、数センチの違いが摂食動作に影響する場合があります。
また、事前に見られていた「食べにくさ」というサインが、今回の状況とつながっている可能性も考えられます。
一場面の出来事としてではなく、「用具・姿勢・時間経過」の関係で捉える視点が重要になります。




