急かした一言のあとで|(誤嚥・食事/20分)

本記事の趣旨

この記事では、介助ペース優先と周囲同調による観察不足が重なり誤嚥が発生した事例を取り上げます。

事故の原因を表面的なもので終わらせるのではなく、
背景にある環境や仕組み、心理など多角的な視点から「なぜ起きたのか」を深堀りする構成になっています。

現場での研修や、スタッフの「気づく力」を養うための素材として、
ぜひチームで多様な仮説を出し合ってみてください。

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【事例検討】急かした一言のあとで(誤嚥・食事)

■利用者プロフィール

88歳 男性 要介護度:3 施設入所中 脳梗塞後遺症あり

ADL: 車椅子移動。食事は全介助。
認知機能: 軽度の注意力低下あり。理解力は保たれている。
既往歴: 脳梗塞(右片麻痺) 嚥下機能軽度低下
服薬情報: 抗血小板薬
性格:元公務員。時間や規律を大切にするタイプ。 自分のことは後回しにする傾向がある。
環境: 食堂で10名ほどが同時に食事。テレビが点いている。
現在の生活リズム: 食事には時間がかかる(通常40分程度)が、食欲は旺盛で毎食最後までしっかりと食べようとする。
直近の変化: 新人職員が担当に入ることが増えた。

■状況

昼食時間。
その日は職員配置が少なく、食堂はやや慌ただしい雰囲気だった。
担当した新人職員は、他にも1名の全介助利用者を同時に見ていた。

Aさんは一口ずつゆっくり咀嚼し、飲み込むまでに時間がかかる。
その様子を見て職員は、

「Aさん、もう飲み込みましたか?」
「次、いきますね」
「今日は少し急ぎましょうか」

と、テンポよく声をかけながら介助を続けた。

Aさんは何度かうなずいていたが、途中から視線が下がり、表情が硬くなっていった。

職員が次の一口を入れた直後、強くむせ込み、しばらく咳が止まらなかった。
口腔内にはまだ前の食物残渣が残っていた。

その場には他の職員もいたが、特に声かけのやり方について指摘はなかった。

✍原因を考えてみましょう

✍どのような対策が考えられるか

進行役メモ ※声かけの例

  • 声かけの内容だけでなく、タイミングはどうでしたか?
  • 慌ただしい環境は、利用者にどんな影響を与えそうですか?
  • 誤嚥によるリスクについて、共有はできていましたか?

▼この事例の整理例

こちらの整理例はあくまでも一例であり、正解不正解を示すものではありません。
ここにない考え方も含め、どれも一つの答えになり得ます。

また、個別の状況によって適切な対応は異なります。
実際の現場では施設管理者や医師の指示に従ってください。

■表面的な原因

  • 前の食物が残っている状態で次の一口を提供した。
  • 嚥下の完了確認が不十分だった。
  • 食事介助のペースが本人に合っていなかった。

■背景にある原因

  • 人員不足により、複数名の全介助を同時に対応していた。
  • 新人職員が嚥下状態や適切な介助ペースの把握が不十分だったのかもしれない。
  • 食堂の騒がしい環境により、注意や嚥下への集中が低下していた可能性が考えられる。
  • 利用者ごとの食事介助方法や注意点の共有が十分でなかった。

■対策

  • 嚥下の完了(口腔内・喉頭の状態)を確認してから次の一口を提供する手順を徹底する。
  • 利用者ごとの適切な食事ペースや注意点を具体的に記録・共有する。
  • 新人職員に対して、嚥下リスクや食事介助の基本についてOJTで確認する機会を設ける。
  • 食事介助中は、急かす表現を避け、本人のペースに合わせた声かけを意識する。

見方のポイント

この事例は「確認不足」や「急ぎすぎ」といった行為に目が向きやすいですが、
その背景には人員体制や教育、環境など複数の要素が関係していた可能性があります。

特に、嚥下に時間がかかる利用者に対して、周囲の状況や声かけによってペースが乱れる点は見逃しにくい視点です。

また、本人がうなずいていたとしても、それが嚥下完了のサインとは限らない点も重要です。
対策としては、個別性に応じた介助方法の共有と、「急がせない環境づくり」の両面から捉えることが有効と考えられます。

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